中学3年の娘がまだ幼稚園児だった頃に、育児講演会に行ったことがあります。
「こんなに人が集まる講演会ってあるんだ。どんな人だろう?」 と驚いた記憶があります。
ご存知の人も多いかもしれませんが、有名な児童精神科医 佐々木正美さんの育児講演会でした。残念ながら、佐々木先生は2016年に81歳で他界されました。ご冥福をお祈りします。
当時、私は一体どんな話をしてくださるのかと楽しみにして行ったのですが、良い意味で想像とは全く違うものでした。
ご近所の人との井戸端会議が大切なのだとか、不登校やひきこもりの人がこれほど多い国は日本だけで、今後はこういう人がより増えていくであろうというような話だったからです。
先生が熱弁されていた「子育てと井戸端会議の大切さ、不登校やひきこもりとの関係性」は、後に先生の本を読んでいくうちに自然と理解できるようになりました。
この記事では、私がダントツに素晴らしい育児書だと感じた「子供へのまなざし」(著者 : 児童精神科医 佐々木正美) について、私なりに感じたことも含め、詳しく書いていきたいと思います。
育児書「子どもへのまなざし」をおすすめする理由
私は、育児というものは人生の中で一番大切な役目の一つだと思います。
でも学校でも教えてもらえませんし、教科書さえもありません。
こんな重要なことなのに・・・人は何を指針にして子育てをしていたのでしょうか?
昔は、育児書を読まなくても、義理の両親、近所の人、親戚縁者、友人、幼稚園や保育園、小学校の先生方などいろいろな人たちとの交流の中で、子育ての悩み事や分からないことは解決できていたのかもしれませんね。
人の交流が急激に無くなりつつある今の時代の親は、どうやって子供を育てていくべきか分からなくなってきています。
「子どもへのまなざし」という本は、単なる育児書ではなく、インパクトのあるキャッチフレーズで衝動買いする育児書とも、全く異なります。
子どもの深層心理、社会と連動している親の心の動きさえも敏感に、的確にとらえている精神分析学や社会行動学、そして人生の発達段階において人が幸せを感じるためには果たすべき役割があることなど、人が人として生きるための指針が見える本です。
とても分かりやすく書かれていますが、専門的な育児書だなぁと感じました。
子育てを学ぶだけではなく、私自身の人生の指南書でもあると思っています。
まずは、「子どもへのまなざし」を読んで欲しい
「子どもへのまなざし」は、全3巻の育児書です。
まずは、初版「子どもへのまなざし」を是非読んでほしいなぁと思います。
この本だけでも、本当に子育てのエッセンスが盛りだくさんです。私の場合、この本を読んでから子育てするのとしないのでは、子育てというものの認識が違って見えるくらいのインパクトがありました。
最初に私は図書館で借りて読んでいましたが、手元にいつも欲しくて、結局、3冊とも購入しました。
本を読み終えたときに、「子どもへのまなざし」という題名を選んだ先生の子どもを想う愛情を強く感じました。
育児書らしくない、物語を読むような優しい語り口。
もう少し、図やイラストがあったら読みやすいのになぁとも思いますが、これほど内容の深い育児書に私は出会ったことがありません。
「ぐりとぐら」の挿絵で有名な山脇さんの優しいイラストが、本の表紙に大きく描かれていますが、中は挿絵はあまりなく活字だけで、本を手に取ったとき読みにくいなぁと思われるかもしれません。
でも、書かれていることは、先生が児童精神科医として診察したときのご自身の感情や、臨床してきたなかで証明されてきた事実ばかりです。
読めば読むほど、子どもの心理について考えさせられますし、親であるということの重責を感じずにはいられません。
「子どもへのまなざし」は、続、完と全部で3冊あります
1冊目「子どもへのまなざし」は、育児の指南書的な役割の本です。
子どもの発達段階に応じて、どうやって子どもを育てるのが望ましいかを知ることができます。
2冊目「続 子どもへのまなざし」は、読者である親たちの質問に答える形式の育児書です。より具体例な対処法が分かります。
3冊目「完 子どもへのまなざし」は、先生が40年間、児童精神科医として子ども達を通して感じた日本社会の劇的な変化と、人間関係が急速に失われてしまった現状について詳しく書かれています。
「子育てとは、こういうものである」ということが書かれた、集大成の本とも言えます。
3冊とも興味深く、親として心を揺さぶられる内容ばかりです。
「子どもへのまなざし」に書かれていること
人間の発達段階について、その時期に子供に対してしてあげなくてはならない大切なことが詳しく書かれています。
といっても、決して難しいことなどありません。
子どもに、たっぷりの愛情をかけてやればいいのです。
でも、何でも買ってあげるような甘やかしではなく、子どもがして欲しいと要求したことに心から答えてあげるだけでいいのです。
例えば、「抱っこして~」と甘えてきたら、抱っこしてあげる。泥んこ遊びをしたいといったら、一緒に遊び、服をどろどろにしても、何回でも何十回でも洗ってあげる。
小さな欲求を叶えてあげると、むちゃな要求は決してしません。
甘やかすことと、甘えさせてあげることは全く別物だと書かれています。
「人というものは愛された経験がなければ、他人や自分さえも愛することは出来ない生物なんだ」と身につまされる思いがしました。
まだ物心つかない時期である幼少期が、人間の人格形成のなかでとりわけ一番大切な時期であることを知って育児をすることは、とっても重要なことです。
もうひとつ、この本を読んでいて、「なるほど・・」と感心した言葉があります。
それは、「しつけとは繰り返し教えること、そして待つこと」だそうです。
繰り返し教えてひたすら待つというのは、とても根気のいる作業だと思いませんか?
そう、つまり育児とは、根気のいる作業の繰り返しなのですよね。
そして、育児というものは、他を思いやる行為の連続なのです。
「子どもに思いやりをもってほしい」と親は口をそろえて言います。
では思いやりがある子に育てるには、どうしたらよいのでしょうか?
先生は、子供に思いやりを持ってほしいと願うのなら、親自身が子供の見本になるように行動すること、つまり、親が他人に思いやりの心を持つことだと説いています。
子供というものは、身近な人をお手本にして育っていくものなのです。
子供に言い聞かせることだけが、育児ではないのです。
「続 子どもへのまなざし」に書かれていること
子育てといっても、相手はまだ子どもです。
子どもの性格も大きく違うし、置かれている家庭環境もさまざまです。
当然、1冊目だけを読んでも、「こういう場合はどうしたらいいのか?」と具体的な問題についてのく見えなくなるときがあると思います。
そんなときは、この「続 子どもへのまなざし」を読むことをおすすめします。
読者の質問に答える形式で話が進んでいくので、より具体的な答えが見つかります。
また、漠然と感じる育児不安や、子どもと社会との関係性についても詳しく書かれています。
「木を見て森を見ず」という育児ではなく、「この混沌とした社会の中で、子どもを育てている」という見識を持つことは、大切なことだと思います。
私は、娘や息子に一流大学に進み、エリートになって欲しいと思ったことはありません。
それよりも、何より周りの人に愛され、ある程度の妥協はあっても自分の好きなことでご飯が食べられる生活をしていってくれたらいいなぁと願っています。これもまた難しいと思いますが・・・。汗
そのためには、この子供達を人に愛される人になるように、そして人や自分自身を愛せる人に育てなければと思っています。
子どもというものは、大人の説教をまともには聞いていません。
私が口先で話すことよりも、私がどう生きて、どう人と接して、どういう感情を持って生きているかということを一番身近に、そして敏感に感じ取って生きているのだと思っています。
たとえば、本を読んでいる姿を見せたことのない親が、子供に「本を読みなさい」といったところでどれだけ、子供の心に響かせることが出来るでしょうか?
そんな言葉よりも、親が本を読んでいる姿を見せ続けることの方が、子供の心に訴える力があるはずです。
「完 子どもへのまなざし」に書かれていること
この本は、「子どもへのまなざし」、「続 子どもへのまなざし」を出版してから10年以上たった後に発行された本です。
「完 子どもへのまなざし」は、まさに先生が子供を育てるということについてご自身が感じたすべてを書き綴っている集大成のような本です。
また、人が一生を幸せに生きるためには、人生の各発達段階でクリアすべき課題があるという精神分析家エリクソンのライフサイクルについてのお話と、発達障害や自閉症の子供達についてのお話が書かれています。
発達障害や自閉症のお子さんをお持ちの人にとって、障害を的確に理解することがとても重要です。この本は、発達障害について、とても分かりやすく解説しています。
私が「子どものまなざし」を通して感じたこと
お父さんとお母さんが仲良い家庭は、子育てが楽しい
数多くの虐待をするお母さんと接してきた先生は、夫と仲の良いお母さんで我が子を虐待する人を見たことがないと言っています。
つまり、虐待している人は、孤独な育児を強いられている人なのです。
夫婦仲が良いことが育児の意欲を沸かせ、悩み事を聞いてもらえることで、明日への希望が持てるのだと言います。
乳幼児期は、子どもの要求をいっぱい受け入れてあげよう
赤ちゃんから3歳くらいまでは、赤ちゃんが快適と思うように、楽しいと思うことにいっぱい共感してあげることが大切です。
自分が望むように育てられる経験をした乳幼児は、人を信じ、人を好きになることができます。
「三つ子の魂、100まで」というのは、人格形成まの基礎を作るこの時期をおろそかにすることの危うさを語っているのだと思います。
決してしてはいけないのは、自分が望むように子どもでいて欲しいと思うことです。
子どもの望んでいるようなお母さん、お父さんになってあげようという感情を持たない親が増えていると書かれています。
小学生になったら、子供同士で遊ぶ時間を沢山作ってあげて
私が子供の頃は、まだ今よりも草むらや空き地がありました。
砂場でプリンの容器に砂を入れて、ケーキ屋さんごっこをしたり、穴を掘って、落とし穴を作ったりして、近所の子と自転車に乗って近くの公園に行って遊んでいました。
私は自分が子供のときよりも、今の子供達は子供同士で考えながら遊ぶ時間や環境、とても少なくなったなぁと感じます。
「子ども同士の自由な遊びというものは、実は人格形成においてとても大切であること」を、親はもっと知る必要があると、佐々木先生は訴えています。
子供同士で遊ぶ力がつかないと、どんなに学力があっても、実社会の中で人間関係につまづきやすくなるのだそうです。
要するに、小学生くらいまでに子供同士で遊ぶ体験が少ない子供は、社会に出たときに困難に立ち向かいにくくなってしまうのだそうです。
育児で大切なことは、親が他を思いやる気持ちを持つこと
今の日本の子育ては昔と比べると難しくなってしまったと、先生は語っています。
一体どういうことなのでしょうか?戦後最も経済発展をとげた国、日本。
平和でかつ平等で、経済的にも豊かになったこの国で、どうして子育てがしにくくなってしまったのでしょうか?
その答えは、「良い意味でも悪い意味でも、人々が自由と便利さを手に入れたからです。」と先生は語っています。
人間というものは悲しいかな「自分のための自由や楽しみを追求し過ぎると、他人より自分のことが優先になってしまうもの」と書かれています。
良い子育てとは、多様な人の中で育てること
今の日本は、人が自由と利便さを追求した結果、知らぬ知らぬのうちにわがままになってしまい、孤立しながら生きている時代になってしまったと語られています。
昔は今日ほど、不登校やひきこもり、家庭内での凶悪な事件はありませんでした。
昔は今ほど社会全体が裕福ではなかったにせよ、子どもも親も人に囲まれて今より良い育児ができていたのかもしれません。
子供達は、祖父母や近所の人々や、また子供同士が遊ぶ時間も今よりももっと多かったのです。
そして「最近は、親自体が人づきあいを嫌う人がとても多くなった」とも書かれています。
親の意識の根底には「出来るなら煩わしいことをしたくない」という心理が働いているのだそうです。
「こんなこと頼んだら、相手に悪いかな」と思うということは、あなたも「こんなこと頼まれたくない」と思っているのだそうです。
人間関係というのは、常に鏡合わせのようなものなのだそうです。
そして親子関係とは、実は人間関係のなかで、一番密度の濃い関係でもあります。
親が他人と関りを持ちたくないということは、親子である「人間関係」をも、実は破綻するということを示唆しているのだそうです。
子育てで最悪な環境というのは、孤立した家庭で育児をすることだと力説されていました。
先生は、人間が「人と人の中で、安らぎや安心感を得られなくなるというのは問題です」と語っています。
「子供を育てる中で一番大切なのは、家庭だけではなく、社会や地域でいろいろな人の中で育てることなのだそうです。」
まとめ
佐々木児童精神科医 : 佐々木先生の「子どもへのまなざし」に書かれていた言葉の中で、とても心に響いた文があります。
親の希望どおりのことを、子どもがしてくれることに喜びを感じるのではなく、子どもの希望にこたえられることに、幸福を感じられる親であってほしいということです。
「人間」の本当の幸福は、相手の幸せのために自分が生かされていることが、感じられるときに味わえるものです。
このことは本当に本当です。
自分の幸せばかり追求することによって得られる幸せなど、本当の幸せではけっしてないのですから。
引用元:「子どもへのまなざし」著者 佐々木正美
子どものために、自分の夢を犠牲にするのではなく、自分らしく生きることは大切です。
でも、子どもが親を必要としたときは、何を犠牲にしても、子どもを一番に考えることのできるそんな親でありたいなぁと思います。